Complicated Watch

2018.01.10

コレクターを虜にする
芸術的なメカニズム

©2017 Greubel Forsey

人生のすべてを時計の収集に費やす究極の時計コレクターたち。そして、彼らを虜にする究極の複雑時計ブランドがある。スイス時計産業の中心地ラ・ショー・ド・フォンにアトリエを構える、2人の凄腕時計師が2004年に創立した「グルーベル フォルセイ」だ。今回は、ブランド十数年の足跡の中で最も複雑で芸術的な製品をご紹介する。

 

Vol.7

GRUBEL FORSEY 『Grande Sonnerie』

グルーベル フォルセイ グランドソヌリ チタン ミレジメ

 

2人の天才が設立した

世界最高の独立時計師ブランド

 

複雑時計ブームが興った1990年代以降、優れた才能を持つ時計師たちが、理想の時計作りを志し、自分の名を冠した時計ブランドを設立した。今回紹介する「グルーベル フォルセイ」は、そんな独立時計師ブランドの中でも、時計愛好家たちが「メカニズムのユニークさ、複雑さ、そして仕上げでも世界最高」と認める究極の存在だ。製品価格はどれも1千万円を超える。

 

ブランドを設立したのはフランス・アルザス地方に生まれのロベール・グルーベルと、イギリス・セントアルバン生まれのステファン・フォルセイ。それぞれに時計師としてキャリアを積んでいた2人は、スイスで複雑時計の開発工房として有名なルノ・エ・パピ社で出会い意気投合。2001年に共同でムーブメント開発会社「コンプリタイム」を設立。時計ブランドからムーブメントの開発を請け負う一方で、時計コレクターを満足させる世界最高の複雑時計作りをスタートさせた。現在の「グルーベル フォルセイ」という名前で会社とブランドを創立したのは2004年。以来、時計関係者やコレクターたちが最も注目する存在となった。

 

 

©2017 Greubel Forsey
ロベール・グルーベル(左) 父の仕事を観て幼少時から精密機械に興味を持ち、時計師となる。スイス・シャフハウゼンの名門時計ブランドIWC、ルノ・エ・パピで3年間働いた後、ステファン・フォルセイと共に独立起業。機械式時計ムーブメントの開発に情熱を注ぐ。
ステファン・フォルセイ(右) 父から機械に対する優れたセンスを受け継ぎ、ロンドンの宝飾時計ブランド「アスプレイ」の修復部門で働く。さらにスイスのWOSTEPのトレーニング、ルノ・エ・パピを経てグルーベルと共に起業し、世界最高の時計作りを追求する。

 

 

伝説的な複雑機構

その可能性を徹底追求

 

グルーベル フォルセイの製品のいちばんの特徴。それは天才時計師ブレゲが開発した、地球の重力が原因で起きる時計の姿勢差(進み遅れ)を軽減する複雑機構「トゥールビヨン」への徹底したこだわりだ。

 

もともとは懐中時計のために誕生したトゥールビヨンは、時を刻む脱進調速機構(テンプとヒゲゼンマイ、アンクルとガンギ車)をケージ(カゴ)に入れて常にメカニズム全体を回転させ、この機構にかかる地球の重力を平均化することで、その影響で起きる進み遅れを減らす仕組み。技術の進化で通常型の脱進機でも高精度が実現できることもあり、実用的な価値に疑問を抱く時計関係者も少ない。だがグルーベル フォルセイはこの伝説的な機構を劇的に進化させ、1日の誤差が1秒以下という機械式腕時計としては驚異的な時間精度を実現。その価値を改めて時計界に認めさせた。

 

トゥールビヨン脱進機を30度傾けて組み合わせた「ダブルトゥールビヨン30°(2004年)」、4つのトゥールビヨン機構をデファレンシャルギアで組み合わせた「クワドルーブル・トゥールビヨン(2005年)」、トゥールビヨンのキャリッジを25°傾けて24秒で1回転させる「トゥールビヨン 24 セコンズ(2007年)」など、革新的なトゥールビヨン機構を続々と開発。搭載モデルはいずれも、時計業界のプロフェッショナルたちが選ぶ「ジュネーブ時計グランプリ」を筆頭に、時計界のさまざまなアワードに輝いてきた。

 

©2017 Greubel Forsey
トゥールビヨン 24セコンズ ヴィジョン 2016年に発表された「トゥールビヨン 24 セコンズ」の最新モデル。傾斜25度、24秒で1回転する独創のトゥールビヨン機構を搭載。テンプの振動数は毎時2万1600振動。裏面にパワーリザーブ表示。 手巻き/5Nレッドゴールドケース/ケース径43.5mm/ケース厚13.65mm/アリゲーターストラップ/パワーリザーブ72時間/30m防水/価格・要問い合わせ

 

 

とはいえ、2人の天才的な発想と「芸術的」と称えられる卓越した技術はトゥールビヨンに限らず、あらゆる時計機構の開発で発揮されている。たとえば、2017年10月に発表された「ジュネーブ時計グランプリ(GPHG)2017」ではカレンダーウォッチ部門でイクエーション(均時差)表示付きの永久カレンダーモデルがグランプリを獲得した。

 

 

©2017 Greubel Forsey
2017年11月9日にジュネーブで行われたジュネーブ時計グランプリの表彰式でスピーチするステファン・フォルセイと受賞モデル。

 

 

11年をかけて完成した

初のグランドソヌリ

 

スイス時計界でも最高峰の技術と芸術的な美しさで、2004年のブランド創立から現在まで複雑時計の開発をリードしてきたグルーベル フォルセイは2017年1月、ブランド初の「グランドソヌリ」機能、つまり決まった時刻になると、自動的に時打ち機構が作動し、毎正時、15分、30分、45分を音で知らせる腕時計「グランドソヌリ チタン ミレジメ」を発表した。そしてこのモデルは、多くのグランドソヌリモデルと同様に、毎正時だけを音で知らせる「プチソヌリ」機能、持ち主が現在時刻を知りたい時に「いま、何時何分なのか」を音で教えてくれるミニッツリピーター機能も搭載している。

 

しかも音を出すゴング(鐘)は、通常のミニッツリピーターモデルよりも2倍の長さで、より重厚で余韻のある音を響かせる「カテドラルゴング」と呼ばれるタイプを、さらに時間精度の要である脱進調速機構には、25°に傾けたキャリッジが24秒で1回転する独自の「トゥールビヨン 24セコンド」を採用する。

 

 

つまり、製品名には反映されていないが、このモデルはグランドソヌリとトゥールビヨン、2つの複雑機構を兼ね備えた超複雑モデルなのだ。そして、どちらの複雑機構もその構造や配置などあらゆる点で独自性が貫かれたものとなっている。たとえば通常なら円弧型のカセドラルゴングは、トゥールビヨン24セコンズ機構との干渉を避けるため、キャリッジの部分は円弧からさらに円が外側に張り出した形状となっている。また、音の美しさも特筆に値する。

 

さらに、11もの安全機構が組み込まれており、壊れる心配などせずに操作できる点もこのモデルの画期的で革新的なところ。たとえば、ソヌリ機構やミニッツリピーター機構を作動中にリュウズ操作を行うなど、複雑時計ではこれまで「絶対に行ってはいけない」とされてきた操作もこのモデルなら安心して行える。

 

 

©2017 Greubel Forsey
文字盤側3時位置にはストライキング機構(グランドソヌリ、プチソヌリ、ミニッツリピーター)用ゼンマイのパワーリザーブ表示、3時位置にはソヌリ機構のモード(グランドソヌリ、プチソヌリ、無音)表示、5時位置には時計用ゼンマイのパワーリザーブ表示、7時位置にはスモールセコンド式の秒表示とトゥールビヨンが、そして10時と11時の間にはゴングを叩くハンマーの動きが見える窓がある。またムーブメントはシースルーバックのケース裏から細部まで鑑賞できるように設計されており、その美しさも圧巻。なお自動巻きローターはソヌリ機構用のゼンマイを巻き上げるためのもの。

 

 

ロベール・グルーベルとステファン・フォルセイの2人が935個の部品で構成される、すべてが革新的なこの超複雑モデルの開発に費やした時間は実に11年。これだけのメカニズムを備えながらケースのサイズは直径43.5mm、厚さ16.13mm。一般的なスポーツウォッチと変わらないという点も驚異的だ。年間生産予定本数は5〜8本。果たして価格はいくらになるのか。また、どんな人々がこのモデルを購入するのか。興味は尽きない。

 

 

 

 

©2017 Greubel Forsey

 

 

GRUBEL FORSEY 『Grande Sonnerie』

グルーベル フォルセイ グランドソヌリ チタン ミレジメ

 

究極の時計師ブランド「グルーベル フォルセイ」初のグランドソヌリ(&トゥールビヨン)モデル。ブランドとしては初の自動巻き機構を搭載したモデルとなるが、前述したようにこれはストライキング機構用。フル巻き上げ状態で約20時間動作する。時計機構用のゼンマイは「機械式時計は手巻きであるべきだ」という2人の信念に基づいて手巻き式で、振動数は毎時2万1600振動。約72時間のパワーリザーブを確保する(ただし、リュウズを逆の方向に回すことでソヌリ用のゼンマイを手巻きすることができる)。手巻き/チタンケース/ケース径43.5mm/アリゲーターストラップ/価格・要問い合わせ

 

問い合わせ先

ヴィタエルーキスTEL:03-6264-5685

info@vitaelucis.com

http://gf.vitaelucis.com/

 

(取材&文・渋谷ヤスヒト)

 

PROFILE 渋谷ヤスヒト

ジャーナリスト、エディター、メディアプロデューサー。モノ情報誌編集部員時代の1995年から現在まで、スイス2大時計フェアや国内外のあらゆる時計ブランドの取材を一貫して続ける腕時計のエキスパート。他にもクルマ、カメラ、家電、IT機器、ファッション、トラベル、食まで、国内外のあらゆるモノとコト作りの現場取材を続けている。