パリとアート

2018.04.20

パリで気持ちのいい初夏を過ごす、
森の中のミュージアム。

両脇に広大な森を抱いた街、パリ。そのひとつ、皇居の約8倍以上もの広さがある「ブーローニュの森」は、テニス全仏オープンが開催されるロラン・ギャロスや、ロンシャン競馬場、バガテル公園、そして市内とは思えないほどの静かな森が見わたす限り続くパリのオアシス。その中でもファミリーに人気のスポット、ナポレオン3世によって1860年に開園したアクリマタシオン庭園のとなりに2014年オープンしたのが「ルイ・ヴィトン財団美術館」だ。その名の通り、あのルイ・ヴィトンが現代アートをより身近に楽しんでほしいとの想いから設立したアートスポットで、財団とLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループを率いるCEOベルナール・アルノー氏のコレクションを中心に、視覚芸術の今がわかる展覧会を随時企画している。

 

 

まずは、その建築デザインが訪れる人の目を惹く。手がけたのは世界的建築家のフランク・ゲーリー。彼はフランスの詩人マルセル・プルーストが歩き、詩にも書いたこの森の緑に包まれて涙が出たといい、絶えず変化する世界のように時間や光によって絶え間なく表情を変える建物を構想したかったという。完成したのは、緑と空のあいだにあらわれた透明な雲を感じさせるような、あるいは12枚の大きなガラスの羽を開こうとする生き物のような圧倒的な建築。さぞかしデザインから建設までには多くの苦労があっただろうとも想像できる。

 

 

 

同じく彼が設計したスペイン・ビルバオのグッゲンハイム美術館もそうだが、外観に驚かされて中に入ったあとも、歩を進め、フロアを移るごとに風景が変化していき、外に広がる空と森と庭園、そして水辺の景色とがまざりあって、さまざまな角度からワクワクするような光景に出会える構成になっていてまた感動する。

 

 

見どころの多い展覧会はできるなら休憩を入れながらゆっくり見たい・・・。そんな時には、トップフロアの広いテラスに出てみるのがおすすめ。複雑な形をした外観のガラスの下には空中庭園が広がっていて、しかもひな壇のようないくつもの層になっているので飽きがこないのもいい。

 

 

ブーローニュの森のはっとするほどの広がりや、その緑から顔を出したエッフェル塔、乗馬教室の馬たち、アクリマタシオン庭園で遊ぶ人々、にょきにょきと超高層ビルが建ちならぶ新街区ラ・デファンスの風景まで、中心部とは違う穏やかで平和なパリの表情が目の前に広がる。気に入った風景を風にふかれてゆったりと眺めながら、気持ちのいい空気を呼吸してまた展示室に入れば、アート作品も少し違って見えてくるようだ。

 

 

 

4月11日からはじまった展覧会は『Diapason du Monde 世界との調和』と題され、世界的に知られる現代アーティストをはじめ28人の作品が一堂に並ぶ。アンリ・マティスやアルベルト・ジャコメッティ、イヴ・クラインなどモダンアートの巨匠たちから、マウリツィオ・カテラン、ピエール・ユイグ、ゲルハルト・リヒター、そして村上隆といった近年の現代アートシーンを牽引してきた作家が登場。時代や作風を超えて呼応しあう。

 

 

 

 

展覧会のあとは、アーティスティックな空間で食事も楽しめる。美術館の1階にはフランス・ミシュランガイドで星を獲得したレストラン「Les Tablettes (レ・タブレット)」のジャン=ルイ・ノミコスを迎えた「LE FRANK(ル・フランク)」。本家のLes Tablettes よりも少しカジュアルでリーズナブルに多国籍料理を楽しめ、なによりもフランク・ゲーリーの設計した建築と広がる景色に包まれながらの時間がなんとも心地いい。そしてミュージアムショップでは、展覧会のカタログや現代アートの関連書籍はもちろん、ルイ・ヴィトン財団美術館オリジナルのスマートフォンケースやトートバッグなどバリエーション豊かなグッズが人気。さすがモードのトップブランドの名を冠した美術館のプロダクトだけに、シンプルだがデザインのクオリティが高く、しかも手頃な価格なのもうれしい。

 

この美術館は、建物の入口でチケットをチェックしたら、内部は自由に、開館時間内はずっと滞在することができる。一応順路はあるけれど展示室も行き来は自由で、ひとまわりして終わりではなく何度も作品を見られるのというのはアートを楽しむ施設としてかなり魅力的なこと。なぜなら、最初に通り過ぎたときにはわからなかった作品の良さや面白さ、展覧会のキュレーターがどうしてこの作品を一緒に展示したかったのか、などに後から気づいたりすることも多いから。

 

 

これから夏が近づき、パリは一年でいちばんの季節を迎える。隣のアクリマタシオン庭園もルイ・ヴィトン財団の手でリニューアルが進められていて、5月には新しい緑の楽園が再オープンする。さらに美しくなるブーローニュの森の景色と一体になって、建築、アート、デザイン、そして環境までがひとつに調和したルイ・ヴィトン財団美術館。かたちあるものばかりでなく、そこに流れる「時間」も思いのまま味わいたい。

 

 

[Fondation Louis Vuitton ルイ・ヴィトン財団美術館]

 

Avenue du Mahatma Gandhi 75116

12:00-19:00(月・水・木)

12:00-23:00(金)

11:00-20:00(土・日)

メトロ1号線「Les Sablons」(Fondation Louis Vuitton方面出口)から徒歩約15分。

またはパリ・シャルル・ド・ゴール広場(凱旋門)のAvenue de Friedland(フリードラン通り)入口からシャトルバス(事前購入の入場券・乗車券が必要)

http://www.fondationlouisvuitton.fr/

 

 

杉浦岳史/ライター、アートオーガナイザー

コピーライターとして広告業界に携わりながら新境地を求めて渡仏。パリでアートマネジメント、美術史を学ぶ高等専門学校IESA現代アート部門を修了。ギャラリーでの勤務経験を経て、2013年より Art Bridge Paris – Tokyo を主宰。現在は広告、アートの分野におけるライター、キュレーター、コーディネーター、日仏通訳として幅広く活動。

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