パリとアート

2018.03.23

フランスで最も知られた日本人。
藤田嗣治、パリ全盛の時代にひたる。

パリで文化や芸術に興味があるフランス人なら、「フジタ」の名を知らない人はいないだろう。 フランスを愛し、フランスに愛され、最後はフランス国籍を取得し、カトリックの洗礼さえも受けた日本の画家、藤田嗣治。フランス人にも日本語に近い発音ができるよう、ローマ字の「FUJITA」の代わりに「FOUJITA」と綴った名前はそのまま今に受け継がれ、同じ時代を生きたピカソやモディリアーニなどと同じように、フランスを代表する芸術家として知られている。TVやラジオ、雑誌などではことある事に特集が組まれ、彼が晩年を過ごしたパリ郊外の最後の自宅兼アトリエや、洗礼を受けたシャンパーニュ地方の街・ランスで手がけた教会には多くの人々が来訪。静かながら根強い人気のほどをうかがわせる。

 

 

没後50周年を迎える今年は、日本でも東京都美術館や京都国立近代美術館での大回顧展をはじめ多くのイベントの開催が予定されているが、それに先駆けてパリで注目の展覧会が3月7日から始まった。場所はサン=ジェルマン地区に近いマイヨール美術館。この美術館は藤田より少し前の時代、20世紀初頭を中心に活躍した彫刻家・画家アリスティド・マイヨールの最後のモデルで、アートコレクターでもあったディナ・ヴィエルニが設立。マイヨール作品の常設展示のほか、近現代の作家を中心にした企画展を開催している。

 

 

1886年に生まれた藤田嗣治は、1905年に東京美術学校(現在の東京芸術大学)に入学。パリへ渡る夢を27歳でかなえた1913年(大正2年)は第一次世界大戦の前年だった。戦争の勃発によって日本からの送金も途絶え、生活はたちまち困窮するが、戦後のフランスはいわゆる「狂乱の時代」と呼ばれる好景気に支えられて芸術や文化が大きく花ひらく。特に絵画や彫刻の世界では、のちにモダンアートの巨匠となるアーティストたちが活躍をはじめ、その文化に憧れた人々やパトロンになる実業家がヨーロッパを中心に世界中からパリに集まる時代になっていった。そんななか「フジタ」も頭角を現す。1919年には「サロン・ドートンヌ」というパリの美術展で出展した6点がすべて入賞。モディリアーニやスーティン、ザッキン、ピカソなど彼の親友となった画家たちとともにやがて「エコール・ド・パリ」(パリ派)と呼ばれて注目され、ボウルを乗せて切ったザンギリ頭と丸めがねというダンディだがちょっと風変わりなファッションセンスも手伝って、パリの人気者、時代の寵児になった。「peindre dans les années folles」(狂乱の時代を描く)と副題のついた今回の展覧会は、まさに藤田が「Foujita」としてパリの画壇を登りつめていく時代、1913年から1931年頃の作品を中心に展開されている。

 

 

日本画と西洋画の技法をアレンジ、あるいは模写証明書を手にルーブル美術館に頻繁に出入りして原始フランス美術や、イタリアルネサンス絵画の歴史を吸収する中で、旧来の様式にとらわれない独自のスタイルを創りあげた藤田嗣治。この時代に彼が手法を確立した、陶器のような滑らかな表面と光沢をもったあの独特の乳白色の肌、その下地の上に面相筆を使って描いた裸婦像は、この展覧会でも存分に間近で見ることができる。身体の線や布のフリルの複雑な絡み合いが、流麗で繊細な墨色のラインで描かれるさまは、うっとりしてしまうほどだ。

 

 

パリで彼が最初に結婚した女性フェルナンド、あるいは「ユキ」や「キキ」などのミューズたち、他にも「猫」や「子供」のシリーズ、あるいは彼が職人を自認して道具や画材を丁寧に整えていたアトリエの様子を描いた作品も通じてフランスでの生活が生き生きと迫ってくる。この時代に撮影された若い藤田の映像や、シュールレアリスムの写真家アンドレ・ケルテスによるポートレート写真など、彼の人となりがわかる展示が多いのもこの展覧会の特徴だ。

 

 

 

クライマックスは「争闘I」「争闘II」の連作と、「ライオンのいる構図」「犬のいる構図」の連作、合わせて4枚、全体で幅12mにおよぶ作品をおいたラストの展示室。1928年に完成したあと、藤田が「生涯で最も重要な作品」としただけあって、どこか人間の本性を見るようなありとあらゆる姿勢の男女が画面いっぱいに描かれた様子はまさに圧巻。完成から60年以上経った1992年に、キャンバスが丸められた状態で眠っていた作品が倉庫で「発見」されたといい、その後大規模な修復を経て大作がよみがえった。

 

映像の中ではしゃぎまわったり、カメラに向かっておどけてみせる姿と、制作にかける執念と繊細さ。日本の画壇との複雑な関係はさておき、極東からやってきた唯一無二の若き才能に熱狂した「フランスにおけるフジタ」の足跡がこれまであまり展示されていなかった個人コレクションの作品も含めて見られる展覧会は、今年7月15日まで公開される。

 

 

Foujita – Peindre dans les années folles

2018年3月7日~7月15日

Musée Maillol マイヨール美術館

61 rue Grenelle, 75007 Paris, FRANCE

期間中無休

10:30~18:30(金曜日は20:30まで)

入場料13€(一般)

ウェブサイト http://www.museemaillol.com

 

杉浦岳史/ライター、アートオーガナイザー

コピーライターとして広告界で携わりながら新境地を求めて渡仏。パリでアートマネジメント、美術史を学ぶ高等専門学校IESA現代アート部門を修了。ギャラリーでの勤務経験を経て、2013年より Art Bridge Paris – Tokyo を主宰。現在は広告、アートの分野におけるライター、キュレーター、コーディネーター、日仏通訳として幅広く活動。