Complicated Watch

2017.09.06

ミステリアスでメロディアス!
超絶メカニズムの“夢の共演”

Laziz Hamani©Cartier

 

腕時計はもはや「時を知る道具」ではない。あなたの時間を豊かに彩り、輝かせ、ドラマチックなものに変える、美しく感動的なアート作品だ。名門時計メゾンは現在、この認識の下、かつてない美しさとメカニズムを持つ芸術的な腕時計の製作に取り組んでいる。第3回目の今月は、世界中の女性を魅了し続けるハイジュエリー・メゾン「カルティエ」から、神秘的で音楽的な超絶作品をご紹介する。

 

 

Vol.3

CARTIER

『ROTONDE DE CARTIER MINUTEREPEATER MYSTERIOUS DOUBLE TOURBILLON WATCH』

カルティエ ロトンド ドゥ カルティエ ミニッツリピーターミステリアス ダブル トゥールビヨン ウォッチ

 

セレブリティを虜にした

ミステリークロック

 

1847年の創業から現在まで、卓越したジュエリーで世界中のセレブリティ、そして女性たちを魅了し続ける「カルティエ」。20世紀初頭のイギリス国王エドワード3世が「王の宝石商にして、宝石商の王」と讃えた伝説のハイジュエリー・メゾンは、時計の世界でも数々の伝説的なクリエーションを成し遂げてきた。その中でも伝説的な作品が1912年に誕生した「ミステリークロック」。歯車などのメカニズムは巧妙に隠されており、文字盤に見えるのは、透明な空間の中に、浮かぶように見える時針と分針、2本の針だけ。

 

考案したのは時計師から転身し「近代マジックの父」と讃えられるジャン・ウジューヌ・ロベール=ウーダン。燕尾服にシルクハットという、現在のマジシャンのスタイルを確立したことでも知られる19世紀の伝説的なマジシャンだ。カルティエは天才時計職人モーリス・クーエと共同で1912年にこの神秘的なメカニズムをクロックとして製品化。当時のセレブリティたちはこぞってこの“ミステリアスな時計”を注文したという。そして当時の製品は、今も美術工芸品の傑作としてコレクターの垂涎の的だ。

 

 

「モデルA」と呼ばれる最初期のミステリークロック。これは2014年にパリ・グランパレで開催された展覧会「カルティエ スタイルと伝統」で展示されたもののひとつ。今も誕生当時そのままに、マジカルでミステリアスなメカニズムで私たちを魅了する。

 

 

約100年の時を超えて

神秘のメカニズムが腕時計に

 

そして誕生から約100年近くが経過した2013年、カルティエはこのメゾンの輝かしい伝説に画期的な1章を加えた。このミステリークロックのメカニズムを、驚くべきことに腕時計サイズに凝縮して製品化したのだ。それが同年1月にスイス・ジュネーブのS.I.H.H.(国際高級時計展。通称ジュネーブサロン)で発表された「ロトンド ドゥ カルティエ ミステリアス アワー ウォッチ」である。

 

 

Vincent Wulveryck@Cartier

 

 

ロトンド ドゥ カルティエ ミステリアス アワー ウォッチ

ミステリークロックのメカニズムを搭載する腕時計。時分2本の針は表裏どちらから見ても、小さなケースの中の何もない空間に浮かんでいるように見える。手巻き/18Kホワイトゴールドケース/ケース径42mm/ケース厚11.6mm/アリゲーターストラップ/ミステリー機構/約48時間パワーリザーブ/日常生活防水/6,450,000円(税抜)/6,966,000円(税込)

 

 

それだけではない。カルティエはこの“ミステリークロックの腕時計版”と同時に、伝説のミステリー機構と地球の重力の影響で起こる時計の進み遅れを減らすトゥールビヨン機構、この2つを融合させたまったく新しいミステリアスなメカニズムを創造した。それが「ロトンド ドゥ カルティエ ダブル ミステリー トゥールビヨン」に搭載されたダブル ミステリー トゥールビヨン機構である。

 

このメカニズムの素晴らしさを理解するのはかなりの時計通でも難しいが、できるだけ簡単に説明してみよう。トゥールビヨンとは時を刻む脱進機構を回転させることで時計にかかる重力の影響を平均化する仕組み。この脱進機構はケージと呼ばれる小さなカゴの中に収められており、その中で休みなく回転する。このモデルの場合はケージを支える支柱が見えない、特に製作が難しい“フライングトゥールビヨン”と呼ばれるタイプであり、しかもミステリー機構の技術を使って宙に浮いたカタチになっている。そして脱進機は60秒ごとにクルリと1回転する。そのため「ミステリー トゥールビヨン」という名称が与えられているのだ。ではなぜその前に「ダブル」という名称が付けられているのか? それは脱進機ばかりでなく、宙に浮かんで自転しているトゥールビヨン脱進機を収めたケージ全体も、空間の中を5分間でクルリと1回転するから。つまりフライングトゥールビヨンとケージの両方を同時に、しかもミステリアスに回転させるから「ダブル」と名付けられた。まさに“究極のミステリー機構”だ。

 

 

Photo 2013@Cartier

トンド ドゥ カルティエ ミステリアス ダブル トゥールビヨン ウォッチ

手巻き/プラチナケース/ケース径45mm/ケース厚12.45mm/アリゲーターストラップ/ミステリアスダブルトゥールビヨン機構/約52時間パワーリザーブ/日常生活防水/ジュネーブ州が定める伝統的製法に基づいて製作されたことを証明するジュネーブ・シール取得/18,800,000円(税抜)、20,304,000円(税込)※参考価格

 

 

 

 

究極のミステリー機構と

究極の複雑機構が融合

 

そしてカルティエの“ミステリアスな時計伝説”は2017年、さらに画期的なメカニズムと魅力を備えた製作数わずか50本の限定モデルへと発展する。それが“究極のミステリー機構”ミステリアス ダブル トゥールビヨン機構に、現在時刻を音で知らせるミニッツリピーター機構を融合させ、しかもメカニズム全体をスケルトン構造にしてケースの表裏から鑑賞できるようにしたこの「ロトンド ドゥ カルティエ ミニッツリピーター ミステリアス ダブルトゥールビヨン ウォッチ」だ。

 

時を音で知らせるミニッツリピーターは、機械式時計の複雑機構の中でも誰もが認める究極のメカニズム。時刻を知りたいときこの機構を作動させると、腕の上に乗る小さな時計ケースの外周部にセットされたワイヤー状の低音と高音の2種類のゴングを小さなハンマーが規則正しく時、分で音色を変えながら決まった回数を叩くことで現在時刻を教えてくれる。そしてゴングの音色は時を知らせるために打たれる教会の鐘の音をお手本にした美しいもので、教会の鐘が毎正時と15分ごとに鳴らされることにちなみ、15分もひとつの規準になっている。そのため11時59分なら、低音のゴングを11回叩いて11時であることを、低音と高音のゴングを同時に3回叩いて45分を、さらに高音のゴングを14回叩いて45分プラス14分、つまり59分であることを知らせる仕組みになっている。

 

しかもカルティエはこのミニッツリピーターの機構にも画期的な革新を加えた。最新の音響解析技術を駆使して、ゴングを叩くハンマーの素材や形、さらにゴングの固定方法などにも新しい工夫を加え、これまでにない美しい音、豊かな響きを実現したのである。また機構の動作方法も伝統的なスライド式レバーではなくボタン式とすることで、ミニッツリピーターとしては画期的な日常生活に対応できる防水性を確保した。その上、これだけのメカニズムを搭載しながら、軽量なチタン製ケースの厚さをわずか11.15mmに抑えた。これは一般的な腕時計よりもはるかに薄い。つまり、時計の歴史に新たな1ページを加える超絶的なメカニズムを搭載しながら、日常的に着けて楽しむことができるのだ。

 

時計愛好家を驚かせたミステリアス ダブル トゥールビヨン機構の神秘的な動き、芸術品のような機械式ムーブメントの姿を愛でることができる。さらに、時刻をこの上なく美しい音の響きで知ることができる。ここまで特別な喜びが凝縮され、しかも日常的に楽しめる腕時計はこのモデルを置いて他にない。まずはそのミステリアスな動きと美しい音を楽しんで頂きたい。

 

 

 

 

 

 

Laziz Hamani@Cartier

ロトンド ドゥ カルティエ ミニッツリピーター ミステリアス ダブル トゥールビヨン ウォッチ

手巻き/チタンケース/ケース径45mm/ケース厚11.15mm/アリゲーターストラップ/ミステリアスダブルトゥールビヨン機構、ミニッツリピーター機構/約3.5日間パワーリザーブ/日常生活防水/ジュネーブ州が定める伝統的製法に基づいて製作されたことを証明するジュネーブ・シール取得/ 世界限定50本/54,000,000円(税抜)、58,320,000円(税込)ただし予価、入荷時期未定

※これ以外にケースとダイヤルにバゲットカットダイヤモンド、ケースのベゼル部分にバケットカットダイヤモンドをセットしたモデルもある(それぞれ20本、30本の限定製作)

 

 

 

 

 

 

問い合わせ先

カルティエ カスタマーサービスセンター TEL.0120-301-757

www.cartier.jp

(取材&文・渋谷ヤスヒト)

 

PROFILE 渋谷ヤスヒト

ジャーナリスト、エディター、メディアプロデューサー。モノ情報誌編集部員時代の1995年から現在まで、スイス2大時計フェアや国内外のあらゆる時計ブランドの取材を一貫して続ける腕時計のエキスパート。他にもクルマ、カメラ、家電、IT機器、ファッション、トラベル、食まで、国内外のあらゆるモノとコト作りの現場取材を続けている。