Complicated Watch

2017.08.09

時計師を超えた

天才技術者父子

 

当時の人々を虜にしたシンギングバードの美しく優しいさえずり。その秘密は、ゼンマイ仕掛けで動く超小型の「ふいご」と笛だった。つまり鳥の声は口笛のように、空気の力で作られたもの。そしてこの「シンギングバード」のメカニズムを今から約230年前、1784年から1785年頃に発明したのが、オートマタ(精巧なからくり仕掛け)の天才として、また時計師として現代まで語り継がれる伝説の時計師、父ピエール-ジャケ・ドロー(1721〜1790)と息子アンリ・ルイ・ジャケ・ドロー(1752〜1791)だとされる。

 

父ピエールと息子アンリ・ルイのジャケ・ドロー父子。どちらもいずれ劣らぬ天才的な時計師だった。

 

今もスイス時計産業の中心地であるラ・ショー・ド・フォンの農家に生まれた彼はまず、この地で機械式時計の製作者として頭角を現した。そして1758年、スペイン国王にその才能を認められたのをきっかけに、作品を持ってヨーロッパ中を旅して名声を確立。息子でやはり時計師のアンリ・ルイ・ジャケ・ドローと、養子となった凄腕の時計師ジャン-フレデリック・レショーと共にこの「シンギングバード」機構をはじめとするオートマタの製作に没頭する。1790年に逝去するまで、数百を超える膨大な数の作品を製作しているが、その中でも特に傑作として名高いのが、まさに現代のロボットの先駆的存在である3体の自動人形「文筆家」「画家」「音楽家」。現在はスイス、ヌーシャテル美術歴史博物館に収蔵されているこの3体のオートマタは、数百ものカムと歯車を組み合わせることで、ペンの先にインクを付けて視線を動かしながら紙にインクで文字を書く、鉛筆の芯から出る粉をときどき息で吹き飛ばしながら数種類のデッサンを描き、オルガンのキーを指で押して5種類の音楽を奏でるなど、驚きの機能を実現している。まるで生きているかのような精密な造りと動きは、ロボットが活躍する現代人が観ても感動的だ。

 

「文筆家」「音楽家」「画家」を披露するピエール-ジャケ・ドロー※文筆家の実物とその動きは、ジャケ・ドローの以下のURLで観ることが可能です。

 

http://www.jaquet-droz.tv/video/9308963/the-writer-by-pierre-jaquet-droz