デザインインフォメーション

2017.04.10

デザインの視点+体験型の展示で
スポーツを読み解く『アスリート展』

「報道写真の視点」アダム・プリティ(ゲッティイメージズ)
 

六本木・東京ミッドタウンの21_21 DESIGN SIGHTで、またおもしろい展示をやっている。デザインの視点を組み込んだ体験型の展示で、アスリートの身体性を紐解く『アスリート展』だ。GWに向けて子どもや家族と一緒に楽しめる展覧会としてお薦め。

 

 

「アスリートの体型特性」LENS(岡田憲一+冷水久仁江) プロジェクションされた来場者のシルエットが様々な競技のアスリートの体型に変化することで、その違いを体感できる。

「アスリートの体型特性」LENS(岡田憲一+冷水久仁江)

プロジェクションされた来場者のシルエットが様々な競技のアスリートの体型に変化することで、その違いを体感できる。

 

 

モーションだけを切り出したときに見えてくる

「アスリート」の「デザイン」

 

卓越した身体能力を持つアスリートは、パフォーマンスを含めた「肉体美」に注目されることが多い。隆起した筋肉。しなやかに伸びる手足。力強さも、俊敏さも、バランス感覚も、究極的に美しく、ときに神々しくさえ見える。

 

『アスリート展』というタイトルから最初に想像したのは、一流のアスリートたちを被写体とした写真展だった。競技中の瞬間を捉えた報道写真を並べれば、それだけでも見応えのある展示になるだろう。

 

ところが21_21 DESIGN SIGHTが企画した『アスリート展』は、たんにアスリートの肉体美に迫ったものではなかった。アスリートの要素をていねいに分析し、アスリートの世界を体感できる構成の展示になっていた。

 

 

「アスリートダイナミズム」Takram  6競技のアスリートによる「動き」をモーションキャプチャーデータから抽出して可視化。

「アスリートダイナミズム」Takram 

6競技のアスリートによる「動き」をモーションキャプチャーデータから抽出して可視化。

 

 

「驚異の部屋」アニメーション:高橋啓治郎、人体造形:菊地絢女 アスリートの超人的な身体能力を、ギャラリー全体を用いて表現。アスリート自身の動きをもとに制作した実寸大のプロジェクション映像により、世界記録(陸上競技)を体感できる。

「驚異の部屋」アニメーション:高橋啓治郎、人体造形:菊地絢女

アスリートの超人的な身体能力を、ギャラリー全体を用いて表現。アスリート自身の動きをもとに制作した実寸大のプロジェクション映像により、世界記録(陸上競技)を体感できる。

 

 

展示は、アスリートの動きを見て、感じるところからはじまる。

 

展示スペースの導入部に投影されている作品は、たくさんの白い光の線が波打つように動く「アスリートダイナミズム」。漫然と眺めていれば抽象的な作品にしか見えない映像は、アスリートの動きをモーションキャプチャーで可視化したものだ。

 

うねる光が、歩行、走行、ハードル走、高跳び、体操の跳躍技における、身体の各ポイントの移動の軌跡だと解った瞬間、脳の中でまったく離れた場所にあった「アスリート」と「デザイン」がつながった。

 

続く「驚異の部屋」では、よりわかりやすいかたちでアスリートの動きを体感することができる。壁面4面をスクリーンに、原寸大のアスリートの動きをプロジェクション映像として投影。モーションを間近に見ることで、スピードや高さ、距離感、躍動感がリアルに解る。

 

100m走、110mハードル、幅跳び、高跳び、棒高跳び、マラソン、体操の跳躍技。誰もが知っているアスリートの動きは、新たな発見と驚きに満ちていた。

 

 

「バランス コントロール」構成:展覧会企画チーム、株式会社テック技販 来場者が自分自身の「バランス」を理解することで、身体感覚を体験できる。

「バランス コントロール」構成:展覧会企画チーム、株式会社テック技販

来場者が自分自身の「バランス」を理解することで、身体感覚を体験できる。

 

 

「アスリートの眼」星野泰宏 剣道などを例に、体験者が対戦相手をどのように見ているのかを視覚化し、アスリートの視覚と比較する。

「アスリートの眼」星野泰宏

剣道などを例に、体験者が対戦相手をどのように見ているのかを視覚化し、アスリートの視覚と比較する。

 

 

(左)「身体コントロール:グレーディング」、(右)「身体コントロール:タイミング」時里 充、劉 功眞(LIUKOBO) アスリートがどのように「力の調整」「タイミング」「空間や距離の把握」をコントロールしているのかを、自身の身体を通して体験できる。

(左)「身体コントロール:グレーディング」、(右)「身体コントロール:タイミング」時里 充、劉 功眞(LIUKOBO)

アスリートがどのように「力の調整」「タイミング」「空間や距離の把握」をコントロールしているのかを、自身の身体を通して体験できる。

 

 

単純だけど奥が深い!

体験型の展示でアスリートの世界を垣間見る

 

『アスリート展』のベースにあるのは、「自分と同じ“ヒト”なのに、絶対的になにかがちがう」と感じること。裏を返せば「こんなにちがうのに、アスリートも自分と同じ“ヒト”である」ということでもある。

 

一般人とアスリートの差は、どこにあるのか。

 

アスリートのパフォーマンスを支えているのは筋力だけではない。感知する力、判断する力、コントロールする力など、さまざまな能力が磨き抜かれて、はじめて高度なパフォーマンスを実現することができるのだ。

 

メインホールには、バランス感覚やタイミングの感覚、距離の感覚、プレッシャーと向き合う感覚などを体験できる作品が展示されている。実際に体験したり、計測したりするうちに、アスリートの能力は別の次元にあるのではなく、一般人の能力の延長線上にあるのだと気づかされる。

 

興味深かったのは、キーボードで入力を行う作品だ。アスリートとは一見なんの関係もなさそうな内容だが、「無意識下で身体をコントロールしている」ということを客観的かつ科学的に知ることは、アスリートを理解することにつながっている。

 

ビジネスでコンピューターを使っている人にとって、キーボードを見ずに入力することは「当たり前」にできることかもしれない。しかし、最初から当たり前にできた人はいないはずだ。

 

意識の精度を高めながら同じ動作を何万回も反復することで、無意識下で自身をコントロールできる限界を広げる。アスリートが行っているのは、そういうことなのだろう。

 

 

「戦術とビッグデータ」 SAPジャパン株式会社 データ解析システムを応用した操作タッチパネルとともに、実際の戦術を体験できる展示。

「戦術とビッグデータ」 SAPジャパン株式会社

データ解析システムを応用した操作タッチパネルとともに、実際の戦術を体験できる展示。

 

 

「身体拡張のギア」株式会社アシックス、アメア スポーツ ジャパン株式会社、株式会社オーエックスエンジニアリング、株式会社ゴールドウイン、株式会社Xiborg、日進医療器株式会社、ブリヂストンサイクル株式会社、ミズノ株式会社、山本光学株式会社 さまざまな競技の道具を集めた展示。アスリートと開発者、それぞれが「道具」について語る映像では、微妙な感覚をアスリートがどのように伝えるか、開発者がどのように理解するか、コミュニケーションの難しさとプロ意識の高さが見られて興味深い。

「身体拡張のギア」株式会社アシックス、アメア スポーツ ジャパン株式会社、株式会社オーエックスエンジニアリング、株式会社ゴールドウイン、株式会社Xiborg、日進医療器株式会社、ブリヂストンサイクル株式会社、ミズノ株式会社、山本光学株式会社

さまざまな競技の道具を集めた展示。アスリートと開発者、それぞれが「道具」について語る映像では、微妙な感覚をアスリートがどのように伝えるか、開発者がどのように理解するか、コミュニケーションの難しさとプロ意識の高さが見られて興味深い。

 

 

さまざまな競技から「動きのかたち」だけを抽出してつないだ映像作品「動きのリレー」は、身体のデザインには共通性があることを教えてくれる。

 

陸上、水泳、体操、フェンシング、アメリカンフットボール、テニス、フィギュアスケートなど、特性がかけ離れた競技のなかにも酷似した動きがあるものなのだ。スムーズでテンポがよく、トリック映像を見ているようでおもしろい、という点でも作品としての完成度は高い。

 

アスリートを知る過程で、身体、環境、道具などさまざまなデザインに気づくことができ、気づいたことを日常生活にフィードバックすることができる。大人にとってはそれがこの展覧会のおもしろさだが、小さなお子さんにとっても「体験する」ことからさまざまな発見があるだろう。

 

アスリートは別次元の存在ではない。アスリートの一端を知ることが日常のなかの身体性とデザインの本質を考えるきっかけになるとは……。21_21 DESIGN SIGHTの目のつけどころには、いやはや驚くばかりである。

 

(取材・文/久保加緒里、会場写真・木奥恵三)

 

 

「アスリート・デザイナー:スポーツと武芸道」岡本菜穂(SIRI SIRI) 様々な分野のアーティストやデザイナーが、自らの手法でアスリート性を具現化する。

「アスリート・デザイナー:スポーツと武芸道」岡本菜穂(SIRI SIRI)

様々な分野のアーティストやデザイナーが、自らの手法でアスリート性を具現化する。

 

 

「Ironman Champion Chrissie Wellington, Human Body Study 1213」ハワード・シャッツ Photograph by Howard Schatz from Schatz Images: 25 Years (Glitterati, Inc. 2015)

「Ironman Champion Chrissie Wellington, Human Body Study 1213」ハワード・シャッツ

Photograph by Howard Schatz from Schatz Images: 25 Years (Glitterati, Inc. 2015)

 

 

「Rhythmic Gymnast Jessica Howard」ハワード・シャッツ Photograph by Howard Schatz from Schatz Images: 25 Years (Glitterati, Inc. 2015)

「Rhythmic Gymnast Jessica Howard」ハワード・シャッツ

Photograph by Howard Schatz from Schatz Images: 25 Years (Glitterati, Inc. 2015)

 

 

展覧会ポスター デザイン:古屋貴広(Werkbund)

展覧会ポスター デザイン:古屋貴広(Werkbund)

21_21 DESIGN SIGHT企画展 アスリート展

会期:2017年2月17日(金)~6月4日(日)

会場:21_21 DESGIN SIGHT(東京ミッドタウンガーデン)

開館時間:10:00~19:00(入場は18:30まで)

休館日:火曜日 (5月2日は開館)

入場料:一般1100円/大学生800円/高校生500円/中学生以下無料

*各種割引についてはウェブサイトを参照

住所:東京都港区赤坂9-7-6

電話:03-3475-2121

 

http://www.2121designsight.jp/

 

関連記事一覧