パリとアート

2017.10.13

今年も芸術の秋が到来!
パリにみる暮らしとアートの距離感。

サンジェルマン地区の有力ギャラリーG-P&N Valloisは、日本でも人気のある女性美術家ニキ・ド・サンファルの個展をギャラリストのジョルジュ=フィリップ・ヴァロワが3年前から構想して主導。美術館並みの展示で圧倒する。
Niki de Saint Phalle, Belles! Belles! Belles!, Vues d'exposition à la galerie GP & N Vallois, Paris 07.09 - 21.10.2017 @Aurélien Mole

フランス・パリからアート・デザインのある暮らしを最新情報をまじえてお届けする新連載企画がスタートします。第1回は、一年でいちばんアート界が活気を見せ、さまざまなイベントも行われる秋のパリと、そこに暮らすフランス人のアートと生活のかかわりについてお伝えします。

 

 

長く続いた夏のバカンスが終わり、パリに本格的なアートシーズンが到来した。10月中旬に開催されるアートフェア・FIACに向けて、世界から集まってくるコレクターやファンをうならせるため、ギャラリーや美術館が有力なアーティストやこれからが期待される若手美術家のプログラムを組んでくる。アメリカや新興国に押され気味のパリだが、そこは「芸術の都」を自認する街。まだまだ沈んでなどいられない。

 

フランスの本領は、やはりアートを身近に愉しむ歴史の長さとその裾野の広さだろう。アートは花を飾ったり、家具を選んだりするように、家を彩るアイテムのひとつ。日本では「間」を大切にする文化が底辺にあるせいか、家を飾るといえば玄関先や、今は少なくなった床の間に限られ、部屋の壁はあけておきたいという感覚が主流。フランスでは逆に、人によっては「余白恐怖症」かと思うほどに、壁を絵などで埋めようとする傾向があるように感じる。どちらがいいか、というたぐいの話ではないが、フランスではこの「アートのある暮らし」が、家での過ごし方やライフスタイルをとても豊かなものにしている、という印象がある。

 

Niki de Saint Phalle, Belles! Belles! Belles!, Vues d’exposition à la galerie GP & N Vallois, Paris 07.09 – 21.10.2017@Aurélien Mole

 

アートは社交の話題

 

以前、象徴的なできごとがあった。友人夫婦が新しいアパルトマンに引っ越し、そのお祝いに出かけた時のこと。玄関先で迎えられると、間髪入れずに「ごめん、先に言っておくけど・・・恥ずかしながらまだ壁に絵が飾ってないの」と本当に恐縮したように言うのだ。きっと、壁の飾りに手を入れていなくて空いている、という状態が、人を迎えるにはふさわしくないと思ったのだろう。しかし日本人の私から見たら、こざっぱりしてむしろちょうど良いくらいだったのだが。

 

DALVA DUARTE , La Legenda de Mazeppa, Galerie Bettina, Paris

 

特にアートファンというわけでもない彼らにしてこうだから、愛好家ともなればギャラリーや大小のアートフェアに日頃から関心をもって探し回り、自分の心に響く作品を見つけると、まるで模様替えをするように絵を掛け替えたりする。小さな頃から教育の中で美術史や作品の見方を学び、自分なりの好みを持ち、人に語り、意見を交換するのが当たり前のフランス人。彼らにとってアートの評価基準は、あくまで自分。名の知れた美術家の作品を欲しい人もいれば、将来性を感じた若手作家を応援するつもりで作品を買い、成長を楽しむという人もいる。

 

サンジェルマン地区の美術界関係者、ギャラリー巡りを愉しむアートファンやコレクターなどが多く集うカフェ「La Palette」。

 

作品の種類にしても、絵画はもちろん、彫刻、ドローイング、写真、現代作家のセラミック作品やその他の工芸など、ほんとうに千差万別だ。この国では自分の家に友人を招いてホームパーティーという機会も多いのだが、そこでこうしたアートが活躍する。訪問客とワインを片手に、その作家が誰で、どのような経歴で、その作品のどこが好きなのか、あるいはそれにまつわる自らの思い出を語る、いわば「社交の話題」になるのだ。

 

ファッションブティックやアートギャラリーが混在するサンジェルマン界隈。まさにアートと生活スタイルがひとつになっている。

 

アートフェア・FIACに追随して、他のフェアやイベント、展示が目白押しになり、この社交の世界がさらに華やかになっていく季節。一般の市民や観光で訪れる人々も巻き込んで、パリが芸術の秋を深めていく。

 

杉浦岳史/ライター、アートオーガナイザー

コピーライターとして広告界に携わりながら新境地を求めて渡仏。パリでアートマネジメント、美術史を学ぶ芸術高等学院IESA(現代アート部門)を修了。ギャラリーでの勤務経験を経て、2013年より Art Bridge Paris – Tokyo を主宰。現在は広告、アートの分野におけるライター、キュレーター、コーディネーター、通訳として幅広く活動。

www.artbridge-paris.com