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2016.02.22

ロンドンのキュー王立植物園が所蔵する
貴重なボタニカル・アート(植物画)を大公開

シデナム・ティースト・エドワーズ《センコウハナビ(ヒガンバナ科)》1818年、キュー王立植物園蔵
© The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew

「キュー王立植物園所蔵 イングリッシュ・ガーデン 英国に集う花々」展が、パナソニック 汐留ミュージアムで開催されています。同園が所蔵する17世紀から現代に至るまでの優れたボタニカル・アート(植物画)作品を中心に、植物を着想源としたデザイン・工芸品などを数多く展示。英国人の植物に対する探究心と情熱を生き生きと伝える、貴重な展覧会となっています。

 

キュー王立植物園のパーム・ハウス © The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew

キュー王立植物園のパーム・ハウス © The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew

 

 

植物学研究の最先端、世界遺産に登録される植物園から

厳選された約150点を展観

 

ロンドンにある総面積132ヘクタールにもおよぶ広大な庭園「キュー王立植物園」は、18世紀半ばに開園し、19世紀の植物学研究を牽引する中核的な機関の一つでした。

 

時代を経たいまなお、膨大な資料を有する最先端の植物学の研究機関であり、同園が収蔵するボタニカル・アート作品は約22万点。2003年には、ユネスコ世界文化遺産にも登録されました。

 

ボタニカル・アートとは、植物図鑑の標本画などに代表される植物画のこと。ボタニカル・アートの始まりはルネサンス時代といわれ、まだ写真もなかった時代、植物のもつ特性を精密に描くことで植物学の研究に役立てられてきました。

 

自然の景観を活かし、変化に富んだ光景をつくり出すイングリッシュ・ガーデン(英国式庭園)を形成する植物の多くは、ヨーロッパ原産と思われがちですが、大航海時代以来、英国の人々の冒険と探求の結果として世界中から集められたものなのだそう。

 

アジアやアフリカ、中南米など世界各地からもたらされた植物は研究の対象となり、ボタニカル・アートとしてさかんに描かれたといいます。

 

セバスチャン・シューデル《マルタゴン・リリー(ユリ科)とクロアザミ(キク科)、他》(『カレンダリウム』より)17世紀初頭、キュー王立植物園蔵 © The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew

セバスチャン・シューデル《マルタゴン・リリー(ユリ科)とクロアザミ(キク科)、他》(『カレンダリウム』より)17世紀初頭、キュー王立植物園蔵
© The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew

 

 

キュー王立植物園が所蔵する作品のうち150点を展示。日本への出品では初となる大規模な展覧会。

キュー王立植物園が所蔵する作品のうち約150点を展示。日本への出品では初となる大規模な展覧会。

 

 

今回の展覧会は、その発展に大きく貢献し、キュー王立植物園と関わりのあるジョセフ・バンクスやチャールズ・ダーウィンらの研究者、往年の植物画家たち、ウィリアム・モリスをはじめとするデザイナーなどに注目しながら、数世紀にわたる英国人の植物への情熱を紐解くもの。

 

日本へのまとまった出品としては、今回が初めてとなる大規模な展覧会。

 

現在も積極的に収集が続くキュー王立植物園が所蔵する作品のうち、約150点が展示されています。さらには多くの作品が最近の10年の間にコレクションに加わったものであり、初公開のものも多く含まれているそうなので、大変貴重な機会といえそうです。

 

 

マーガレット・ミーン《ダリア属(キク科)》1790年頃 キュー王立植物園蔵 © The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew

マーガレット・ミーン《ダリア属(キク科)》1790年頃 キュー王立植物園蔵
© The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew

バシリウス・ベスラーの委託による《オオカンユリ》(ユリ科)(『アイヒシュテット庭園植物誌』より)1613年 キュー王立植物園蔵 © The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew

バシリウス・ベスラーの委託による《オオカンユリ》(ユリ科)(『アイヒシュテット庭園植物誌』より)1613年 キュー王立植物園蔵 © The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

研究者や画家による直筆のスケッチ画など

ほかでは見ることができない重要資料の数々

 

約150点の展示作品には、水彩画、線画、油彩画、鉛筆素描などによる植物図のほかに、世界の国々の風景画や、キュー王立植物園ゆかりの人物を描いた肖像画、服飾作品、陶芸作品など実にさまざまです。展示は植物研究の遍歴を追い、4章立てで構成。

 

1章では、17世紀〜18世紀の植物学研究の草創期に描かれた作品を展示。

 

セバスチャン・シューデルなどの画家により細部まで描きこまれた緻密なスケッチは、よくよく見ると写真よりもつぶさに植物の細部の構造が表現され、相当なデッサン技術はもちろん、視覚的分析力の高さなどもうかがい知ることができます。

 

2章では、植物学の新たな進歩をたどり、キャプテン・クックの航海や、「種の起源」を著したことで有名なチャールズ・ダーウィンの功績を紐解くほか、ヴィクトリア時代の女性旅行家マリアン・ノースが描いた絵画などを展示。

 

ノースは日本も訪れており、彼女が柔らかな油彩のタッチで切り取った当時の京都の風景は、興味深いもの。英国人がいかに国外へ目を向ける好奇心が旺盛で、かつ研究熱心であったかが、一つひとつの作品からよくわかる内容になっています。

 

特に、ダーウィンによる書簡や直筆の鉛筆素描などは非常に珍しいものだそうで、ほかではなかなか見ることができない貴重な資料。マニアならずとも、ぜひこの機会に見ておきたいですね。

 

レイチェル・ペダー=スミス《マメ科の種子を用いた作画》2004年、キュー王立植物園蔵 © The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew

レイチェル・ペダー=スミス《マメ科の種子を用いた作画》2004年、キュー王立植物園蔵
© The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew

 

 

ウィリアム・モリス《チューリップ》1875年頃、個人蔵

ウィリアム・モリス《チューリップ》1875年頃、個人蔵

 

 

3章では、テキスタイルや工芸作品など、産業革命を経て広まった新たな製造技術による新しいデザインを見ることができます。産業革命以前の作品と比べてどう変化したのか、見比べてみるのもおもしろいかもしれません。

 

最後の4章では、キュー王立植物園の公式画家をはじめとする20〜21世紀の画家たちの作品が展示され、今にも動き出しそうなリアルな植物画は見ごたえ抜群です。

 

花好きな人はもちろん、花や植物にあまり興味のない人にこそ足を運んでほしい展覧会。美しいボタニカル・アートの作品に癒され、その歴史にふれることで、新たな興味のきっかけが花開くかもしれません。

 

また、庭にちなんだ日として2月28日(日)、3月3日(木)、3月8日(火)に来場した方には、出品作家のレイチェル・ペダースミスによる本展限定の特性ぬりえをプレゼントするサービスが実施されるので、こちらもお見逃しなく。

 

(文・開 洋美)

 

 

花好きな人にかぎらず、花や植物にあまり興味のない人にも足を運んでほしい展覧会。美しいボタニカル・アートの世界に癒されるはずだ。

花好きな人にかぎらず、花や植物にあまり興味のない人にも足を運んでほしい展覧会。美しいボタニカル・アートの世界に癒されるはずだ。

 

 

キュー王立植物園所蔵 イングリッシュ・ガーデン 英国に集う花々

会期:2016年1月16日(土)〜3月21日(月・祝)

会場:パナソニック 汐留ミュージアム

開館時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)

休館日:水曜日

観覧料:一般1000円/65歳以上900円/大学生700円/中・高校生500円/小学生以下無料  ※障がい者手帳ご提示の方、および添付者1名まで無料

住所:東京都港区東新橋1−5−1 パナソニック東京汐留ビル4階

お問合せ:03-5777-8600(ハローダイヤル)

http://panasonic.co.jp/es/museum

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