行ってみたいデザイン空間

2016.01.07
平家池に面した1階のテラス。Ⅰ型鉄骨の列柱群が平家池から建物を支えている。池の上に張り出した天井に、水面に反射した光のゆらぎが映り込んで、この空間自体が美しい芸術品になっている。

平家池に面した1階のテラス。Ⅰ型鉄骨の列柱群が平家池から建物を支えている。池の上に張り出した天井に、水面に反射した光のゆらぎが映り込んで、この空間自体が美しい芸術品になっている。

 

 

左:中庭中央に置かれたイサム・ノグチの「こけし」。右:1階の壁は栃木産の大谷石が積まれている。

左:中庭中央に置かれたイサム・ノグチの「こけし」。北側2階の外壁にはロールスクリーンが設置され、フィルム上映もされていた。右:1階の壁は栃木産の大谷石が積まれている。

 

 

開放感が無限に増幅する1階

ダイナミックな空間構成の坂倉準三ワールド

 

2階から中庭を中心にぐるりと回遊して1階へと降りる。このダイナミックな空間構成は、師としていたル・コルビュジエから影響を受けたものであるし、坂倉氏自身がパリ万国博覧会日本館(1931)で確立していたものであった。

 

さらにコンペ段階の案では、2階の展示室の東西に展示室やホールの増築を想定した破線が描かれている。これは、ル・コルビュジエが1939年に提唱した「無限発展の美術館」というコンセプトを踏襲したもの。ル・コルビュジエの来日時には坂倉氏は熱心に鎌倉の美術館を案内したという。

 

ル・コルビュジエ自身も鎌倉の美術館から7年後、このコンセプトに基づく美術館を東京の国立西洋美術館で実現する。師弟関係で影響しあう様子がうかがえて興味深い。

 

神奈川県立近代美術館を訪れていつも感じる印象は、2階の展示室はあっという間に終わるということ。1階の展示スペースのインパクトは、それだけ強い。

 

直線の階段を降りて右側にあるのは、先ほど2階から見下ろした中庭。中央には、イサム・ノグチによる「こけし」の彫刻が鎮座する。1952年に開かれた同氏の展覧会に合わせて搬入され、’91年に現在の位置に据えられたものである。

 

 

半屋外の彫刻室では、作品を中庭や平家池など外の景色と合わせて楽しむことができる。2階につながる階段の真鍮製の手すりは、大谷石の壁から少し離れて宙に浮いているようでもある。

半屋外の彫刻室では、作品を中庭や平家池など外の景色と合わせて楽しむことができる。2階につながる階段の真鍮製の手すりは、大谷石の壁から少し離れて宙に浮いているようでもある。

 

 

左:旧館と新館をつなぐ渡り廊下もガラスと鉄骨で構成。右:平家池が借景となった中庭からの景色。

左:旧館と新館をつなぐ渡り廊下もガラスと鉄骨で構成。右:平家池が借景となった中庭からの景色。

 

 

中庭を囲う壁に大谷石を大々的に用いたのは、周辺の自然環境との調和を図ったためと考えられる。大谷石の荒々しい表面には光が伝い、静かに時の流れを感じさせる。

 

また、大谷石に囲われた展示室内は、どこかひんやりと落ち着いた空気が漂う。大谷石の壁には孔が所々にあけられていて、孔を覗いて見える景色もなかなか面白い。

 

1階では他にも、大谷石とガラスの壁で構成される半屋外の空間が広がる。特に平家池に面したテラスでは、外部と内部、自然と建築物が融合した空間体験ができる。池の自然石に据えられたようなI型鋼が支える、池の上に張り出した白い天井面。

 

ここに、晴れた日には水面に反射した太陽光が届き、水のゆらぎが映り込む。刻一刻と移り変わる表情を恒常的に映し出す表現は、東京帝国大学(現・東京大学)文学部の美学美術史学科を卒業した坂倉氏ならではのアーティステックな発想から生まれたものだろう。主に彫刻の展示スペースとなっているが、この空間自体が芸術品となっているといっても過言ではない。

 

 

大谷石の壁には孔が規則的にあけられていて、そこからも作品が見える。

大谷石の壁には孔が規則的にあけられていて、そこからも作品が見える。

 

 

左:彫刻室に展示されている作品。右:平家池にも作品が置かれている。

左:彫刻室に展示されている作品。右:渡り廊下前の平家池にも作品が置かれている。

 

 

 

 

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