デザインインフォメーション

2015.12.28

ブラジルが最も愛した建築家
リナ・ボ・バルディ展

自邸、「ガラスの家」。(Markus Lanz撮影)

日本ではほとんど知られていなかった“ブラジルが最も愛した建築家”、リナ・ボ・バルディの日本初となる展覧会がワタリウム美術館で開催されている。ブラジルの壮大で豊かな自然をベースにし、彼女が関わった主な建築プロジェクトと、多様な活動の様子を紹介する内容。建築と人間との幸福な関係に気づくことのできる、刺激的な展示が繰り広げられている。

 

 

リビングルームの一部が再現された会場風景(3階)。リナ自らデザインした椅子の数々が展示され、工芸品や民芸品も並ぶ。床は淡いブルーを基調にしたガラスモザイクタイル。

リビングルームの一部が再現された会場風景(3階)。リナ自らデザインした椅子の数々が展示され、工芸品や民芸品も並ぶ。床は淡いブルーを基調にしたガラスモザイクタイル。

 

 

 

モダニズム建築とブラジル文化が融合がした

リナ・ボ・バルディのデザイン

 

リナ・ボ・バルディは1914年にイタリアのローマで生まれた。

 

ローマ大学で建築を学んだ後にミラノに移り、建築家・デザイナーであるジオ・ポンティの事務所で約3年間働く。インテリアやプロダクトのデザイン、ジオ・ポンティが創刊した雑誌『ドムス』の編集やイラストなどに携わった。

 

戦後の1946年に美術評論家のピエトロ・マリア・バルディと結婚。彼がサンパウロ美術館に招かれたことをきっかけにブラジルに移住し、1992年に没するまでブラジルで活動した。

 

展覧会では、リナ初の作品で夫妻の自邸でもある「ガラスの家」をはじめ、代表作である「サンパウロ美術館」、「SESCポンペイア文化センター」などをドローイングやスケッチ、写真や映像、そして大小の模型で紹介。

 

さらに、建築家の妹島和世氏による監修、周防貴之のデザインで、リナの手掛けた空間の一部がいくつか再現されている。

 

2階に上がると、床が普段とは異なり、赤茶色で塗られていることに気づく。ブラジルの肥沃な赤土を思わせるもので、このフロアではリナがブラジルで手掛けた代表作を一気に把握できる。

 

リナのデザインは、モダニズム建築とブラジルの土着的な建築や要素を融合させていることが特徴だ。

 

たとえば1951年に完成した「ガラスの家」では、斜面に対して細い柱でガラスボックスが持ち上げられており、山に向かった居住部分では伝統的デザインが取り入れられているという。「ガラスの家」の模型の背後には、家の周りで土をせき止めるための、緑が生え出た壁が再現されている。

 

そして、インテリアや家具もすべて彼女のデザイン。幾何学的で合理的な側面がありつつ、人に優しく温かい。実際の建築に漂っているであろう雰囲気が伝わってくる。

 

この雰囲気は、スケールの大きな建築になっても変わることがない。同じフロアで展開される「サンパウロ美術館」、「SESCポンペイア文化センター」、「サンタ・マリア・ドス・アンジョス教会」の展示からは、いかにリナがその建築を使う人の気持ちや活動に寄り添ってデザインしたのかが分かる。

 

ちなみに、美術館2階の大きな窓に取り付けられた格子窓は、「SESCポンペイア文化センター」の窓を再現したもの。リナが日本へ旅行して目にした寺社建築からインスパイアを受け、取り入れたものだという。

 

 

代表作の「サンパウロ美術館」。(Nelson Kon撮影)

代表作の「サンパウロ美術館」。(Nelson Kon撮影)

 

 

「SESCポンペイア文化センター」、日光浴をする人々。(Romulo Fialdini撮影)

「SESCポンペイア文化センター」、日光浴をする人々。(Romulo Fialdini撮影)

 

 

自邸であり生涯過ごした「ガラスの家」。ピロティから2階への階段に立つリナ。(1951年 Francisco Albuquerque撮影)

自邸であり生涯過ごした「ガラスの家」。ピロティから2階への階段に立つリナ。(1951年 Francisco Albuquerque撮影)

 

 

最初の作品で生涯を通しての自邸となった

「ガラスの家」

 

3階の展示室では、「ガラスの家」をよりよく理解するための仕掛けが施されている。2階でも置かれていた植物が3階にもたくさん置かれ、緑に覆われたなかで、家に至るアプローチ階段が印象的な映像を見る。

 

そして、奥に進むとリビングルームの一部が再現されている。床に敷き詰められているのは、淡いブルーを基調にしたガラスモザイクタイル。50年代当時からずっとブラジルのタイル工房でハンドメイドでつくられているといい、微妙な凹凸が絶妙な光のきらめきを生じさせる。これらのタイルは、展覧会のために空輸してきたとのことだ。

 

ここには、リナ自らデザインした椅子の数々が展示されている。ユニークなフォルムや構造は、一度見ると忘れられないものだ。そしてこのフロアには、リナがブラジル北東部のバイーア州などで集めた工芸品や民芸品がたくさん並べられている。動物や人物など、素朴で色彩豊かなそれらの品は、やはり私たちの心を捉えて離さない。

 

4階ではまず、リナが日本を2度にわたって訪問し周遊したときの写真やメモなどが展示されている。鎌倉や京都などを訪れた彼女がどこに着目したのか、追っていくだけでも興味深い。

 

奥の展示室の壁面には、リナの活動が年を追って解説される。そして、中央にはリナの代表的な椅子「ボール・チェア」が3脚並べられている。

 

ゆっくりと座って、ドキュメンタリーフィルムを鑑賞しよう。自身のデザインした椅子に座って自邸で撮られたインタビュー映像などからは、彼女の人柄と考えに対する理解を深められるだろう。

 

この展覧会を見れば、リナ・ボ・バルディの作品と活動をまとめて把握できる。そして、これからの時代につくられる建築は、本当に必要とされて楽しい場になるだろうか。ブラジルに根付き人々に愛されているリナの作品の数々から、建築の役割を改めて考える機会になる。

 

(文・加藤 純)

 

 

2階の会場では、リナがブラジルで手掛けた代表作を一気に把握できる。赤茶色に塗られて床が、ブラジルの肥沃な赤土を思わせる。

2階の会場では、リナがブラジルで手掛けた代表作を一気に把握できる。赤茶色に塗られて床が、ブラジルの肥沃な赤土を思わせる。

 

 

リナ・ボ・バルディ(ワタリウム美術館提供)

リナ・ボ・バルディ(ワタリウム美術館提供)

リナ・ボ・バルディ(lina Bo Bardi)

1914年:ローマに生まれる。

1940年:ローマ大学建築学部を卒業後ミラノに移り、ジオ・ポンティのもとでインテリアデザインや都市プロジェクト、雑誌の記事やイラストの仕事に取り組む。

1946年:美術評論家でディーラーのピエトロ・マリア・バルディと結婚。戦争で傷ついたイタリアを離れ、ブラジル・リオデジャネイロに移る。翌年サンパウロへ。

1951年:初めての建築作品であり自邸、ガラスの家が完成。同年ブラジル国民となる。

1959年:ブラジル東北部サルヴァドールのバイーア現代美術館の館長となる。

1968年:サンパウロ美術館(MASP)が完成。

1977年:最大のプロジェクトSESCポンペイアの依頼を受け、古い工場を公共のスポーツ文化センターにリノベーションする。

1986年:バイーア州サルヴァドールの旧市街の修復プロジェクトがスタート。

1990年:サンパウロのシティ・ホールの設計がスタート。

1992年:シティ・ホールの改築の途中、自邸にて生涯を閉じる。

 

 

リナ・ボ・バルディ展

――ブラジルが最も愛した建築家――

会期:2015年12月 4日[金]~ 2016年3月27日[日]

会場:ワタリウム美術館

住所:東京都渋谷区神宮前3-7-6

電話:03-3402-3001

休館日:月曜日、12/31~ 1/4 [12/28、1/11、3/21は開館]

開館時間:11時より19時まで[毎週水曜日は21時まで延長]

入館料:大人1000円 / 学生[25歳以下] 800円/小・中学生500円/70歳以上の方700円

ペア券:大人2人 1600円 / 学生2人 1200円

http://www.watarium.co.jp

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